仙台高等裁判所 昭和22年(ナ)2号 判決
原告 三浦雷太郎
被告 蓮池公咲
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は「昭和二十二年四月五日行われた秋田縣知事選挙における被告蓮池公咲の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申立てた。
三、事 実
昭和二十二年四月五日施行の秋田縣知事選挙において原告は選挙人であつて、被告は候補者として立ち当選したのであるが、その当選の告示は同年四月八日せられた。右選挙において候補者の支出し得る選挙運動の費用額は法規により金参万円を超えることを得ないものと制限せられておつたのである。ところが当選人である被告は右選挙において「選挙の文書図画に関する制限」を無視して自己の選挙を有利に導き当選を得る目的を以て貼布用長ビラ(甲第一乃至第十二号証)を二万枚以上、新聞折込並びに撒布用小ビラ(甲第十六乃至第十八号証)を三万枚以上印刷し、これを自己の選挙事務所より秋田縣青年民主同盟員並びに縣下各町村の有力者に依頼して縣下の全各町村に貼布並びに撒布した。右選挙において候補者として立つたのは被告と鈴木清の二名のみで、被告及び被告と意志を通ずる被告の選挙運動者は対立候補者である鈴木清を学生時代から継続しておる共産主義者であるとなし、いわゆる反共を中心とした宣傳戰を意識的、計画的、組織的に展開したのであつて、それが只一人の相手候補者である鈴木清と鬪う最も主要な被告の選挙運動の手段方法であつたことは明らかである。そこで鈴木候補を支持する民主團体選挙鬪爭連絡委員会(民鬪と略称)の運動員達は血眼になつて右長ビラ、小ビラをはぎとつたのであるが、このことは当該ビラの貼布は被告蓮池候補の選挙運動と密接な関連性があり、鈴木候補に不利をもたらす蓮池候補のための選挙運動であつたことを敏感に如実に反映したものである。今ここに右長ビラ及び小ビラの印刷費、これが貼布及び撒布等に要した費用、その他被告の選挙運動費用として被告の選挙費用精算届に記載してある費用の外に追加加算すべきものを列挙すれば、別表記載のとおりである。即ち被告の選挙運動について支出責任酒井英次郎が当選人の支出した費用として報告している金額は合計金一万九千二百三十七円(このうち文書図画費の計上は僅かに二千四百余円にすぎない)であつて、右ビラの印刷費等はすべて除外されておるが、これは故意にした虚偽のものであつて、当選人の実際に支出した本件文書図画に関する費用その他の別表記載の費用は当然選挙費用に加算さるべきである。從つて被告の選挙運動費用精算届の支出明細書中(一)報酬三千九百円は金一万九百八十円を加え金一万四千八百八十円に、(二)家屋費千四百九十円は金二百五十六円八十銭を加え金千七百四十六円八十銭に、(三)通信費二千八円九十銭は金四十六円五十銭を加え金二千五十五円四十銭に、(四)船車馬賃千七百五十円は金三千九百二十一円七十銭を加え金五千六百七十一円七十銭に、(五)印刷費二千四百七十五円は金七万円を加え金七万二千四百七十五円に、(六)廣告費千八百円は金千七百八十円を加え金三千五百八十円に、(七)休泊費千六百五十円は金三百円を加え金千九百五十円に、(八)雜費千六百七十九円六十銭は金二千六百二十円を加え金四千二百九十九円六十銭とすべきであり、右加算すべき費用の合計は金八万九千九百五円でこれと前記届出金額一万九千二百三十七円と合すれば総計金十万九千百四十二円となる。これを法定選挙費用金三万円と比較すれば最少限度金七万九千百四十二円の超過支出となるからして、被告の当選は無効たるべきものである。よつて本訴に及ぶと陳述し、被告の主張に対し、原告に対する刑の執行中であるとの被告主張事実は爭わないが、訴提起当時選挙人であればその後において選挙人たる資格を喪失したからとて本訴の当事者適格を喪失すべきものでない。次に被告は本件ビラの貼布又は撒布は純然たる啓もう運動のためのもので選挙運動ではないというけれどもいかなる啓もう運動でも目的のないものはなく、目的があつてこそ初めて啓もう運動たる所以がある。被告の主張する啓もう運動なるものの目的は被告の当選を得んがため鈴木候補を逆宣傳と中傷とをもつて不利に陷れ、後れておる選挙民を自己の側に獲得せんがための目的をもつた啓もう運動であつたことは明らかである。右長ビラ、小ビラは蓮池候補推薦の組織を通じて廣汎に系統的に配布されておることは選挙運動を実質的に総括主宰したものが計画的、積極的に行つたことを物語るものである。さればこのような陰謀とじつ策に満ちた選挙運動を封殺するため衆議院議員選挙法第百一條の三及び第百四條の規定の適用に関する件(昭和二十一年二月二十二日勅令第九十六号)をもつて規定された「支出責任者に非ざる者の支出する費用にして自筆の推薦状又は電話に依る選挙運動の爲に要する費用以外のものは議員候補者又は支出責任者と意志を通ぜずして支出する費用と雖も之を其の者と意志を通じて支出する選挙運動の費用とみなす」との條文が適用さるべきであると附陳した。(立証省略)
被告訴訟代理人はまず本案前の抗弁として原告は價格統制令違反被告事件につき懲役六月に処せられ該判決は昭和二十三年十二月二十四日確定し、同二十四年二月二十二日からその刑の執行を受け目下在監中である。從つて選挙人たる資格を喪失し、本件原告たる当事者適格をも喪失したのであるから本件訴は不適法として却下の裁判を求めると述べ、本案請求に対して主文第一項同旨の判決を求め、その答弁の要旨は左のとほりである。原告の主張事実中原告が昭和二十二年四月五日施行の秋田縣知事選挙における選挙人で被告がその立候補者であつたこと、右選挙において被告が当選し同月八日当選の告知があつたこと、右選挙の法定費用額は金三万円であつたこと、被告の選挙運動費用支出責任者が届出た選挙運動費用の総額が金一万九千二百三十七円であること及び秋田縣青年民主同盟が組織されたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。原告の主張するような貼布用長ビラ、新聞折込並びに撒布用小ビラ云々の事実は被告の選挙運動に何等の関連なく、右ビラが被告の選挙事務所から前記青年民主同盟員並びに縣下各町村の有力者に依頼して縣下の各町村に貼布並びに撒布したという事実はない。從つてこれに関する費用の如きは全く知らないのである。右選挙当時貼布用長ビラが若干散見されたが該ビラ記載の文言は純然たる啓もう運動のためのものであつて選挙運動のためのものではないから、その費用を選挙運動の費用とするのは当らない。次に原告の主張する昭和二十一年勅令第九十六号(衆議院議員選挙法第百一條の三及び第百四條の規定の適用に関する件)の規定にいわゆる「意志を通ぜずして」とは積極的に通謀することを必要とせず、候補者又は支出責任者が運動者において費用を支出することを何かの原因何かの理由又は何かの機会に知ることを得べき場合にはその者と意志を通じて支出する選挙運動の費用とみなすとの意と解すべきものである。もししからずして之を廣義に解釈し選挙運動者が費用を支出したことを候補者も支出責任者も全然知らず又期待も予想もしなかつたにも拘らず選挙運動者の勝手に支出した費用を選挙運動の費用に加算せられることになつては候補者支出責任者の不安之より甚しきはないと同時に場合によつては敵派の乘ずるところとなり当選無効の材料を予め獲るための手段に供される危險がある。かりに原告主張の費用が候補者被告のため支出せられた選挙運動の費用であるとしても候補者被告も支出責任者酒井英次郎もその支出を知らなかつたものであり又これを知らなかつたについても何等過失はなかつたものであるから衆議院議員選挙法第百十條但書の規定により費用超過による当選無効の結果を生ずるものではない。またもし被告の前掲主張がいずれも理由ないものとするも被告の支出した選挙費用の総額は本件ポスター、ビラの印刷費や頒布の費用を加算しても同選挙につき被告の支出することを得べき法定選挙費用額三万円に達しないことは(1)法定費用額三万円、届出費用額一万九千二百三十七円差引残額一万七百六十三円(2)ポスター、ビラ印刷費六千四百円、運搬貼付新聞折込代千五百五十五円(本件各関係人の調書による)合計七千九百五十五円即ち法定費用額より届出費用額及び本件ポスター、ビラの印刷費、運搬、貼付、新聞折込の費用を控除するもなお金二千八百八円の余剩があり法定費用額を超過していないことは計算上明らかである。以上何れにしても原告の本訴請求は理由がないと陳述した。(立証省略)
四、理 由
原告が本件訴の提起後價格統制令違反被告事件につき懲役六月に処せられ、該判決は昭和二十三年十二月二十四日確定し、昭和二十四年二月二十二日よりその刑の執行を受けていることは当事者間に爭がない。よつてまず、右の事実が本訴に及ぼす影響の点につき考察するに、地方自治法第二十條は「禁治産者及び準禁治産者並びに懲役又は禁こ刑に処せられその執行を終り又はその執行を受けることがなくなるまでの者は選挙権及び被選挙権を有しない」旨選挙権の欠格原因を規定している。しかして原告は本件訴提起後、その係属中に前示の通り懲役刑に処せられその刑の執行を受けるに至つたのであるから、右刑事判決の確定と同時に選挙権を失い刑の執行を終るまではこれを回復しないものといわねばならない。かかる場合には民事訴訟法第二百十二條の規定に準じ原則として訴訟手続は中断するものと解するのが相当であるが、同法第二百十三條により訴訟代理人のある間は中断しないものと解すべきである。本件においては訴訟代理人により原告の権利主張がされていることは一件記録に徴し明白であるから訴訟は中断しないものと解し得られる。原告が前記の事由により選挙権を喪つたため、本訴を不適法として却下すべきであるとする被告の抗弁は採用することが出來ない。次に本案請求について審究するに、昭和二十二年四月五日秋田縣知事の選挙が施行され、右選挙において原告が選挙人であり、被告が立候補して当選し同月八日その当選告示があつたこと、右選挙運動費用は候補者一人につき最高限度金三万円に制限されていたこと、被告の選挙運動費用支出責任者酒井英次郎の届出た費用の総額は金一万九千二百三十七円であつたことはいずれも当事者間に爭がなく、なお同年四月には秋田縣のみならず、全国的に知事選挙の外各種の選挙が行われたこと、即ち四月五日には都道府縣知事、市長及び町村長の選挙、同月二十日には参議院議員の選挙、同月二十五日には衆議院議員の選挙、同月三十日には縣議会、市議会及び町村議会の各議員の選挙が相次いで実施せられたことは当裁判所に顕著な事実である。しかして成立に爭のない乙第二ないし第十一号証、甲第三十五ないし第三十八号証、同第四十三、四十四号証及び証人金政吉、越中勝二、有明市郎、有明次郎、佐々木福治、西川晴雄、畠山銀治郎、近藤福松、伊藤昭次、中村宗伯、早川信次郎、菊地時之助、富木弘市、藤原熊藏、高畑貢、大野粂之助、安田勇吉、畠山林之助、成田重右衞門、河田與茂七、畠山重勇、小松多一郎、高階長吉、小島信一郎、大場直七、武田三彌の各証言、檢証及び被告本人尋問の結果を総合して考えると、被告蓮池公咲は昭和二十一年七月秋田縣知事に任ぜられたが今次知事選挙に立候補のため昭和二十二年三月辞任し、秋田縣の民主党員及び自由党員で結成された秋田縣民主党公認の下に、また訴外鈴木清は社会党、共産党、労働組合、農民組合、日本共産主義青年同盟その他十数團体から結成された民主團体選挙鬪爭連絡委員会(略称民鬪)の推薦を得て社会党公認の下にそれぞれ秋田縣知事選挙に立候補したのであるが、訴外金政吉はかねてから極度に共産主義を嫌い、前掲各種選挙に際して共産主義思想が蔓延し共産党の勢力が拡大することを防止するため反共運動によつて秋田縣民を啓もうしようと企て、同年三月二十五日頃同縣大曲町精巧堂印刷所主越中勝二に依頼し幅約五寸五分長さ約一尺四、五寸の用紙に「強権発動の原因は共産主義者の陰謀だ」「汽車を止め電気を消し石炭をなくし国を覆滅させるのが共産主義者の策謀だ!!」「国を亡ぼす共産主義者に投票するな」「共産主義の知事は民主日本の敵だ」「強権発動させるのは共産主義・社会主義者のリーダーたちだ!!」「ぶちこわしの共産知事が建てなをしの民主知事か」「飢えと欠乏と混乱は共産主義の温床だ、彼等は何をたくらんでいるか見きわめよ」「祖国を守るはあなたの一票危機を救うもあなたの一票」「民主主義の仮面をかぶる共産主義者の正体をつかめ」「労働者を飢えさせ農民を苦しめ其の責任を当局になすりつけるのが共産主義者の戰術だ」「農民と勤労者を共産主義の陰謀から救へ」「供米も税金も君等と相談してと言う魔術師の言葉に迷はされるな!」(甲第一乃至第十二号証)の文言を記載した長ビラ五千枚及び幅約五、六寸長さ約七寸五分位の用紙に前記長ビラと同様反共の文言を記載した小ビラ(甲第十六ないし第十八号証)五千枚を各印刷し、また訴外有明市郎、有明次郎等も金政吉の印刷した前記ビラをみてこれにならい同人と同様反共宣傳のため前記印刷所に依頼して前掲ビラと略同様文言の長ビラ一千枚、小ビラ一万五千枚を印刷作成したこと、そしてこれ等のビラは金政吉、有明次郎等において訴外佐々木福治、秋田青年民主同盟員又は秋田縣民主党本部書記その他に依頼し同人等を通じ同年四月初頃秋田縣下の各方面に亘つて貼布又は配布(小ビラは新聞折込等の方法によつて)されたことを認めることができる。原告は印刷撒布されたビラの枚数は最小限度長ビラ二万枚、小ビラ三万枚を下らず、しかもこのビラの印刷撒布は被告及び被告と意思を通じた選挙運動者によつて組織的に計画実行されたもので、明らかに被告のための選挙運動として行われたものであると主張するが、右ビラの印刷撒布が被告或はその支出責任者酒井英次郎その他被告の選挙事務関係者によつて計画実行され、もしくはこれ等の者と意思を通じて行われたことは、この点に関する甲第十三ないし第十五号証は、証人西川晴雄、畠山銀次郎、近藤福松、伊藤昭次等の各証言によつて認め得る右各書面成立の経緯に鑑みたやすく右事実認定の資料とし難く、右各証人及び証人佐々木福松の各証言その他原告の全立証によつても未だ右事実を確認し得ない。また右認定のように前記ビラ中には「共産主義の知事は民主日本の敵だ」「ぶちこわしの共産知事か建てなをしの民主知事か」等知事選挙に触れたものも存したこと、証人金政吉、有明次郎等の各証言によつて認められるよめに、金政吉、有明次郎等は元來いわゆる保守陣営に属する人々で前記知事選挙に際しても被告側に好意をもちこれを應援していたこと、成立に爭のない甲第十九号証、第四十三号証及び鈴木清の証言によつて認められるように被告は共産主義反対を政見の一として知事選挙に臨み、一方鈴木清は昭和二十二年三月社会党に入党したもので当時は共産党員ではなかつたが、学生時代から共産主義者であると宣傳されていたこと、なお前記ビラを撒布した時期が知事選挙期日の直前であつたこと等諸般の事情からみて、前記ビラの印刷撒布は被告又はその選挙事務関係者と連結なくして行われたものとしても、前記知事選挙を当面の目標として被告に当選を得させるためにせられたいわゆる第三者の選挙運動に属するものではないかとの疑を容れる余地が決してないわけではないが、しかし前掲各ビラの内容を全体的に観察し且つ前に掲げた各証拠と合せ考えると、右は知事選挙についての選挙運動として行わたものではなく、前記金政吉、有明次郎等が前掲各種選挙に際して共産主義思想の蔓延拡大を防止せんがためにした反共啓もう運動に外ならなかつたものと認めるのが相当である。証人小沢三千雄、逸見久吉、鈴木清の各証言、原告本人尋問の結果その他原告の提出援用に係る証拠中上記認定に反する部分は採用し難く、その他に前記認定(印刷撒布されたビラの枚数の点も含めて)を左右するに足る証拠はない。
されば原告主張の別表記載の費用中ビラの印刷撒布に関する部分、即ち
(イ)報酬の部(3)ないし(8)、(10)の一部)九十円)、(11)ないし(25)、(27)ないし(31)、(32)の一部(三十円)、(33)ないし(36)、(37)の一部(三十円)、(38)、(39)、(41)ないし(44)、(45)の一部(百八十円)、(46)の一部(三十円)、(47)ないし(67)、(69)ないし(71)、(72)の一部(六十円)、(73)ないし(78)、(79)の一部(六十円)、)(82)については後述)(84)、(87)
(ロ)船車馬賃の部(1)、(2)、((3)については後述)(4)ないし(15)
(ハ)廣告費の部(2)を除いた全部
(ニ)通信費の部全部
(ホ)印刷費の全部
(チ)雜費の部(3)
以上の費用は被告の選挙運動費用に加算すべきものとはいえないからして、右に要した費用が幾何であるかを審究するまでもなくこの点に関する原告の主張は採用できない。
次に前記選挙の当時秋田青年民主同盟なるものが結成されていたことは当事者間に爭がなく、前掲甲第三十五ないし第三十八号証、証人栗原源藏、川島信一郎、畠山孝二、西山公二の各証言を綜合すれば、右秋田青年民主同盟は昭和二十二年三月二十日頃、東京に在学している秋田縣出身の学生及び地元青年の有志を以て組織されたものであつて、その目的とするところは左右何れにも偏せず中正をとり健全な民主々義の発展を促進するため、前記四月選挙に際し反共の旗幟の下に選挙民の啓もう運動を行わんとするにあつたもので、昭和二十二年四月三日秋田市記念館で「四月選挙批判市民大演説会」を開催し、同月一日、二日の両日秋田市本町の西山公二方の店先に拡声器二台を据付けて右演説会の宣傳放送等を行い、また同月二日には訴外栗原源藏所有のトラツク一台を一時間位借受け秋田市内を廻つて右演説会の宣傳をし、同月四日にも右トラツク一台を三時間位借受け、前記金政吉から貰受けた反共ビラ約千枚を秋田、土崎、新屋方面に撒布したが、右はいずれも被告の当選を得しむることを目的とした選挙運動として行つたのではなく、右同盟自身の目的遂行のために被告又はその選挙事務関係者と連結なくして行つた選挙民に対する啓もう運動に外ならなかつたものと認めることができる。後記甲第二十一ないし第二十三号証等によつては右認定を妨げるに足らず、原告挙示のその他の証拠中上記認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。もつとも成立に爭のない甲第二十一号証当裁判所の眞正に成立したと認める同第四十二号証によれば、右同盟は昭和二十二年四月四日付の秋田魁新報紙上に右同盟の名(責任者佐藤一二)をもつて被告の推薦廣告文を掲載し、その廣告料として同月五日金四百五十円を支拂つたことが認められ、右廣告文の掲載は被告のためにする選挙運動とみられるからして、右廣告料四百五十円は被告の選挙運動費用に加算せらるべきである。しかし甲第二十二、二十三号証によつて認められる廣告文の掲載、即ち秋田青年民主同盟の名をもつて、同年四月九日及び十日の前記新聞紙上に掲載された「御苦労様でした、御蔭様で百二十万縣民の幸福は保証されました、何故か?我が陣営が勝つたから」との廣告は被告のための選挙運動とはみられない。
されば原告主張の別表記載の費用中、右秋田青年民主同盟に関する部分、即ち
(イ)報酬の部 (82)、(85)
(ロ)船車馬賃の部 (3)
(ハ)廣告費の部 (2)の内前記金四百五十円を除いた部分
(チ)雜費の部 (1)、(2)
以上の費用は被告の選挙運動費用に加算すべきものとはいえないから、右に関する費用の数額を究明するまでもなく、この点についての原告の主張は採用し得ない。
次に原告主張の別表記載の費用中、上來説明したビラの印刷撒布に関する費用及び秋田民主青年同盟関係の費用を除いたその余の部分は、仮にそれが原告主張のとおりすべて被告の選挙運動費用に算入すべきものであり、且つそれらのすべてが被告の選挙運動費用支出責任者の届出でた前記費用額の中に含まれていないとしても、その金額は合計金七千円に充たない。從つてこれと前掲秋田青年民主同盟の支出した推薦廣告料四百五十円とを被告の選挙運動費用として届出でられた前記一万九千二百三十七円に加えてもその総額は法定の選挙費用金三万円に足りないことは計算上明らかである。されば別表記載の費用中ビラ及び秋田青年民主同盟関係の分を除いたその余の部分については逐一これを判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由のないことが明らかであるといわなければならない。
なお前に被告の選挙運動費用に当らないものと説明したビラの印刷撒布に関する費用及び秋田青年民主同盟関係の費用が、仮に被告のためにせられた選挙運動費用として加算せらるべきものとしても、右ビラの印刷撒布等は、被告又はその選挙事務関係者との連絡の下に行われたものと認め得られないことは前示のとおりであつて、証人酒井英次郎の証言、被告本人尋問の結果によれば、被告は支出責任者の選任及び監督につき相当の注意を拂い、且つ支出責任者において前記費用の支出について別段過失のなかつたことが認められるからしてこの点からみても原告の本訴請求は認容できない。
よつて原告の請求は失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩眞泰)
(別表省略)